第16 回日本外来精神医療学会総会を会長として担当し、2016 年7月9 日(土)、10 日(日)に横浜市開港記念会館で開催することになりました。副会長は横浜市こころの健康相談センター長の白川教人先生です。本学会の設立においては「 わが国の精神医療における外来診療の果たす役割大きく変わりつつある」、「外来精神医療は利用者が生活世界を失わずに療養を受けられる可能性を開いてきた」、「外来の独自性をもった臨床学を確立していくべき」、「精神医療・精神保健・福祉・相談に携わる者が職域・職種を越えて研磨し合うことを目指す」などが謳われています。
私自身は大学の医学部に所属していますが、主な臨床の場である北里大学東病院は約100 床の閉鎖病床をもち、1 日300–400 名の外来診療を行っています。地域との関係では、市民病院のない政令指定都市の中核的病院であり、神奈川県の精神科救急基幹病院です。700m 離れた大学病院には児童精神科外来を置き、北里大学病院救命救急・災害医療センターには毎日のように自殺企図された方が運ばれ、連携して治療に当たっています。自ら外来診療を行うだけでなく、精神科救急や身体救急、転医希望や紹介される患者さんなどを通して、精神科外来診療の問題点を外からみる立場でもあります。このような状況の下、本学会は私の感じてきた問題点、疑問点をとりあげて、正面から議論する場にしたいと考えています。
テーマは「外来精神医療の透明化と標準化」としました。精神医学では、診断には操作的診断基準があるとしても、それだけで臨床現場で役立つとはいえないし、治療ガイドラインは未熟であまり活用されていません。そのため、医師が自分の知識の限りを尽くした「善意」の治療を行っても、診断や治療が独善的になることが少なくありません。複数の医師による頻回の議論はこれを防ぐ力になりえますが、少数あるいはひとりの医師が担当することの多い診療所の診療ではしばしばこの「独善性」を感じます。このような精神医学自体の特性や外来精神医療の課題を考えて、北里大学精神科ではクリニカルパスや地域連繋パスを検討してきました。本学会ではこのあたりを柱に「透明化と標準化」について議論を深めたいと考えています。
プログラムは現在、精神科医だけでなく、薬剤師、心理士、診療情報管理や医療社会学の専門家が加わったプログラム委員会で検討中です。シンポジウムや教育講演として、「外来精神医療機関の機能分化」、「精神科通院患者の救急と地域連繋」、「入院か外来かをどう判断するか」、「どこから医療で対応し、どこから薬物療法を行うか」、「ベンゾジアゼピン系薬剤は必要か」、「職域における精神医療の功罪」、「心理士に何を期待できるか」などをとりあげる予定です。また学会2 日目の夕方には市民講座として2 つの講演(「大人の発達障害をどう支援するか」、「精神科医をどう選ぶか」)を用意しています。
私はこれまで日本精神神経学会総会をはじめいくつかの学会を担当し、学会のあり方を考えてきました。今回の横浜での外来精神医療学会総会は製薬企業の寄附や学会本部からの補助金を一切受けずに開催する予定です。昼食時間は有効に活用したいと考えますので、800 円程度の弁当を購入していただいて食べながら講演を聴けるようにします。懇親会は参加費無料、軽食と飲み物程度にして、多職種の交流の場にできたらと考えています。
会場の横浜市開港記念会館は大正6(1917)年に創建されて以来、横浜の代表的建造物の一つで、会場周囲には横浜の名所がたくさんあります。私自身とても好きな建物で、何度か学会に利用してきました。精神医学の透明化には精神医療の周囲におられる方からの厳しい問題提起と議論が不可欠です。精神科医だけでなく多くの医療関係者の方の参加を心からお待ちしております。
第16回日本外来精神医療学会 会長
宮岡 等(北里大学医学部精神科学主任教授、北里大学東病院院長)